3人の見送りをすませたウツギ博士とオーキド博士は、研究所内に戻ってきていた。
「そう言えばオーキド博士、さっき用事があってここに来たとおっしゃっていましたよね?」
ウツギ博士がオーキド博士のほうに振り向き、質問する。
その質問を聞くと、オーキド博士はそうじゃった!と少し大きな声を出して、用件をウツギ博士に伝える。
「ウツギ君、今日の午前中にポケモンリーグ本部で、新チャンピオンの就任式があったのは知っておるな?」
「ええ、四天王制度が始まって3年経って、1回目のチャンピオン交代でしたよね?」
ウツギ博士は、自分の記憶の糸をたどりながら答える。
「それで、その新チャンピオンのことを伝えに来たんじゃよ。」
「あ、それはそれは、わざわざありがとうございます。」
ウツギ博士がお辞儀をしながらオーキド博士にお礼を言う。
「それで、これがその新チャンピオンじゃ。」
オーキド博士は、自分のバックから1つのクリアファイルを取り出し、その中から1枚の写真を取り出した。
写真には、黄緑色の髪の毛をして、金色の瞳を輝かせ、白い長袖のシャツに青いズボン、
そして首から水色の十字架のペンダントをかけており、肩からはエメラルドのマントを羽織っている少年が写っていた。
「この子・・・ですか?」
「そうじゃ。クロス・タイムティナー君12歳。先日、カントーの8つのジムを制覇して四天王に挑み、
前チャンピオンのワタル君と戦ったんじゃよ。そして、勝負はクロス君の勝ちだったそうだ。
そのときに、ワタル君は次のチャンピオンはこの子がいいと思ったらしくての。本人の許可を得て、わしに申し出てきたんじゃ。」
「そうですか・・・・」
ウツギ博士は、写真を見ながらオーキド博士の言葉に頷いていた。
そして、クリアファイルの中から、1束の書類を取り出し読み始める。
その中の1文にウツギ博士の目が留まる。
そして、その目は驚きの目に変わる。
「!?「TRAINERS PALETTE」の創設者!?この子が!?」
大声を出すウツギ博士に驚かず、オーキド博士が付け加える。
「そうなんじゃよ。まさか、わしらも研究の依頼しておるグループの創設者がそんな子供だとは思っておらんかったよ・・・。」
「そりゃそうですよ!」
TRAINERS PALETTE―そのグループのことについてはいつか語るとしよう。
しかし、彼―クロス・タイムティナーが表舞台に現れたことで物語の歯車が動き出したのは確かである。
そして、彼がゴールドたちと出会うのは・・・ゴールドにとっての運命の出会いとなるのは、数日後の話である。
第5話「3人の共通点」
ワカバ商店街。ワカバタウンのほぼ中心にあるこの商店街に、先ほどウツギ博士からポケモンをもらったあ3人がいた。
商店街はお昼の時間と言うことなのだろう、人々でごった返していた。
3人はその人々をひょいひょいとかわしながら前へと進んでいた。ただ1人、クリスを除いて。
「ゴールドー!シルバー!ちょっと待ってよー!」
クリスは2人の1メートルほど後ろを歩いていた。
ゴールドたちは大時計のあるところに少しスペースを見つけて、そこでクリスが来るのを待っていた。
少しすると、クリスが人ごみの中から顔を出した。
「ハァハァ・・・・・2人とも・・・よく・・・そんな・・・軽々・・・・・歩けるわね・・・・。」
完全に息を切らしているクリスが言った。
そんなクリスとは対照的に、ゴールドとシルバーはきょとんとして話す。
「だって僕達、」
「このワカバで育ったんだぜ?」
ゴールドの言葉に、シルバーがつなげる。
そのシルバーの言葉にクリスが疑問を持った。
「育ちは・・・って、じゃあ生まれは?」
「あっ!ク、クリスちゃん!それは言っちゃ・・・・」
クリスから出た言葉にゴールドがすぐに反応する。
しかし、そのゴールドの言葉をシルバーが腕をゴールドの前に伸ばしてやめさせる。
「いいぜ、ゴールド。そんなに気を使わなくても。クリス、ここじゃ話しにくいからまたあとでな。」
「・・あ、もうすぐ西通りだからはやくこの人ごみ抜けちゃおうよ。」
ゴールドはそう言って人ごみの中に入って行った。
それにつづいて、シルバー、クリスもゴールドのいった方向に歩き出した。
西通り。ワカバタウンにある4つの大通りのうちのひとつ。この通りには、ほかの通りとは違って、比較的店が多い。
そして、ワカバタウンから29番道路へ通じる唯一の道でもあるため、人通りは多い。
そんな通りへ出た3人は、寄り道せずに29番道路方向へ向かう。
5分後、3人はワカバタウンのすぐ近くの広場に来ていた。
そして、木陰に腰を下ろす。
「さてと、クリス。さっきの話しだけどな・・・」
シルバーが、ふぅと一息吐いて話し始める。
ゴールドはちょっと元気の無い顔になり、足を抱えるように組んで、シルバーの顔は見ずに話を聞いていた。
「俺は捨てられたんだ・・・3歳のときに・・・」
「え!?」
とたんにクリスの顔が驚きの顔へ変わる。そして、すぐに悲しそうな表情をしてうつむいてしまった。
「ごめんなさい・・・・・・そんなこととは知らずに聞いちゃって・・・・」
「あ、クリスがそんな風に謝らなくてもいいよ。知らなかったんだから。」
シルバーがいまにも泣いてしまいそうな顔になったクリスに言った。
「そう言えばさ、昔はよくここで遊んだよね。」
ゴールドが話題を変えようと、昔の話を持ち出してきた。
クリスも泣くのをこらえ、ゴールドの話に耳を傾ける。
「そうだな・・・4年前からさっぱり来なくなってたもんなぁ。」
「どうして?」
シルバーの言ったことにクリスが聞いてくる。
「それはちょっと・・・」
シルバーが少しくらい顔になってしまう。しかし、すぐに微笑み、言葉を続ける。
「でも、昔はここに集まって友達と1日中遊んでたんだ。俺と、ゴールドがいろいろと遊びを考えて」
「そうなんだぁ」
「それでね、その間にもいろいろとハプニングみたいのがあったんだよー」
ゴールドが苦笑しながら言う。シルバーもそうだなと、つぶやいていた。
「たとえばどんなこと?」
「一番ひどかったのは6年前にスピアーに襲われたことかなぁー。」
ゴールドが目をつぶりながら、クリスの質問に答えた。
クリスは一瞬、え?と目が点になってしまったが、すぐに我に返りさらに質問を投げかける。
「そのとき、誰もけがとかしなかったの?」
「う〜ん。タツキがかすり傷を負ったぐらいかなぁ。」
「え?」
クリスが、いきなりいままでとは違う雰囲気の声を出した。
それに気づいたゴールドがクリスに聞く。
「僕、なんか変なこと言った?」
「いま、けがした子の名前・・・タツキって言ったわよね?」
「うん。言ったけど・・・・?」
ゴールドはきょとんとしてクリスをみる。
クリスはなにやら考え事をしているようで、眉間に少ししわを寄せていた。
そして、しばらくして、クリスが口を開く。
「やっと思い出したわ・・・どこであなた達を見たかを。」
「俺達を見たことがある?」
「クリスちゃん、どういうこと?」
クリスは急に真顔になって話し始める。
「実は、2年前に私にポケモンバトルを教えてくれた同い年の子がいてね・・・。
その子に名前を聞いたときに、彼、紫桜 竜希(しざくら たつき)って名乗ったのよ」
「!!!」
クリスの口から出た名前に、ゴールドとシルバーは目を見開く。
クリスはさらに話し続ける。
「でね、タツキ君の持ってた写真を見せてもらったことがあってね・・・その写真に、タツキ君と、
赤い髪の男の子と、帽子を逆にかぶった男の子が写っていたの・・・。」
その写真の内容に気づき、ゴールドはリュックの中からあの写真たてを取り出した。
それを無言でクリスに渡す。クリスは驚くことも無く写真たてをゴールドに返しながら言った。
「・・・・・・うん。この写真だわ・・・・。」
「そっか・・・・やっぱり・・・」
「でもどうして?タツキ君ってこの町の人だったんでしょ?」
それを言ったとたん、シルバーとゴールドの顔が、さっきよりも曇った。
「実はな・・クリス。」
シルバーが震えた声で話しだす。
「タツキは4年前に・・・・誘拐されたんだ。」
「え!?ゆ、誘拐!?」
「そう。犯人はいまだにわかって無いんだ。」
「くそっ!!2年前にキキョウにいたとは・・・わかっていれば助けられたのに・・・・。」
ゴールドとシルバーはうつむく。その中で、クリスが少し付け加える。
「私も、いま彼がどこにいるかはわからないわ・・・。1ヶ月間だけしかキキョウにいなかったから・・・」
ゴールドはまた深い悲しみに襲われてしまった。
そのゴールドの頬を透明な雫がつたっていくのを、クリスは黙って見ていた。
「タツキ・・・・」
ゴールドがつぶやいたその言葉を最後に、しばらくその場から声が聞こえることは無かった。
たった1つの共通点・・・・
それは、あまりにもつらい真実を知らされるものとなり、彼らの希望を奪ってしまうものだった・・・
TO THE NEXT
あとがき
はぁ・・・5話目、終わりました。
ちょっと最後のほうがおかしくなってしまいましたが・・・(汗)
そして、付け加えると、ここまででプロローグを抜いて原稿の2話分・・・・・・(大汗)
やっと動きが見えはじめました。
実は、このジョウト編は、いくつかの部に分かれていまして、
いまは第1部「出会いと対立」と言うサブタイトル的なものがテーマになっています。
第1部はいまの所の予定で20話前後。
しかし書き方によっては多くなったり少なくなったり・・・・・・・
まぁがんばってみます。(何)
読んでくださっている方々、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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